(※本記事は旧ブログに2020年5月に掲載したものを再掲しています。)
ナマステ、インド在住のKome(@chankomeppy)です。
インドにはヘンテコな形をしたトイレがある。
それが「アングロ・インディアン・トイレ」だ。
洋式便座に翼が生えたような形状は非常にユニークで、このような形のトイレはインド以外で見たことがない。インドにしかないトイレということは、インドならではの事情が潜んでいるはず?
ということで、今回はアングロ・インディアン・トイレットについて探ってみた!
▼目次はこちら (クリックして表示)
- はじめに:インドのトイレ事情
- 洋式トイレとインド式トイレの問題
- ステータスも使いやすさも重視した「アングロ・インディアン・トイレ」
- アングロ・インディアン・トイレには「インド」が凝縮されている!?
- まとめ
はじめに:インドのトイレ事情
はじめにインドのトイレ事情について簡単にふれておくと、
インドのトイレは、日本人にとって全く抵抗のない非常に綺麗なものから、屋外で用を足すようなものまで、様々なスタイルがある。
しかし伝統的には、かつての日本のように「しゃがみ込んで用を足す」のが習慣である。
上流階級は日常的に洋式トイレを使っているが、庶民の家では今でもインド式トイレが使われているし、ローカルレストランや安宿、観光地にもインド式トイレが設置されている。旅行者の場合、バックパッカーならインド式トイレに頻繁に遭遇するだろう。
洋式トイレとインド式トイレの問題
ステータスの高い洋式トイレ
インドでは、長いイギリス植民地の歴史から、英国のものは上流階級が使う「上品」で「モダン」で「カッコいい」ものという感覚がある。
また、棲み分けされた社会の中で、自分の階級にあったものを使わなければいけないという「義務感」や「暗黙のルール」のようなものが存在している。
例を挙げると、上流階級が集うパーティーやビジネスの場では、たとえ参加者全員の母国語が同じでも、交わされる会話はほぼ英語に限定される。ヒンディー語よりも英語で会話する方が上品でフォーマル、格式高いためだ。
しかし、彼らも家族や親しい友人とは母国語で会話をする=母国語の方が心地よい。母国語を話すほうが楽チン+参加者全員が母国語を理解できるにも関わらず、あえて英語で会話するのは、その場が英語を話すべきフォーマルな場であるからにほかならない。
これと同様に、英国式の洋式トイレはインド式トイレよりも格上という扱いを受けており、
一定以上のステータスを自負する場所には洋式トイレが設置されなければいけない。
高級ホテルや高級レストラン、ハイブランドショップが入居する高級ショッピングモールといった富裕層が利用する場所は、説明不要で洋式トイレが相応しい場所だ。外国人が利用する空港や観光地にも洋式トイレが設置される。
使いやすくて宗教的にも不安が少ないインド式ポーズ
富裕層や外国人向けの施設に設置された洋式トイレは、正しい使い方で使用される。
問題は、庶民も使用する可能性があるところに設置された洋式トイレだ。利用者の中には、自分の家でしゃがみ込んで用を足すのと同じように洋式トイレの便座にしゃがみ込んで用を足す人が少なからず存在する。
インド人は保守的な人が多いので日々の習慣をいきなり変えることを苦手とする。そのため、「しゃがみ込んで用を足す」というスタイルを変えられず、洋式トイレの便座に土足であがり、いつも通りにしゃがみ込んでしまう。
習慣に加え、宗教的な理由からも洋式トイレの便座に座ることに強い抵抗が持たれる。
ヒンドゥー教には「浄・不浄」の概念があり、人の使ったものは不浄で、それに触れることで穢れがうつると考えられている。
手で食事をしたり、使い捨ての素焼きのチャーイカップが使われたり、バナナの葉っぱがお皿代わりに使われるのは、まさにこの浄・不浄の概念によるもので、誰かが使った食器は不浄だから使わない、というものだ。
洋式の便座も不特定多数の人が座っている不浄なものなので、洋式トイレに慣れていない人が洋式トイレに出くわした際に便座に座りたくないと思うのはごく自然なことである。
しかしその結果、洋式トイレの便座が靴底の泥で汚れたり、お尻を洗った水で水浸しになってしまうという事態が発生する。場合によっては、しゃがみ込む人が多発して壊れたのかなんなのか知らないが、洋式トイレの便座が取り外されていることもある。
以前、車で長距離移動中に田舎の小さなショッピングモールにトイレ休憩で立ち寄った際、洋式トイレの便座がすべて取り外されていることがあった。全て壊れたのか、あえて取り外したのかは謎だが、田舎では洋式トイレのニーズが全然ないということだろう。
ステータスとして洋式トイレを設置しても、庶民にとってはインド式ポーズの方が用を足しやすいようで、洋式トイレは実用的ではないようだ。
ステータスも使いやすさも重視した「アングロ・インディアン・トイレ」
ステータスは大事、でも使いやすさも大事、、、
こうした悩みを解消する画期的(?)なトイレが、「アングロ・インディアン・トイレ」だ。
「アングロ」とはヒンディー語で「英国の」を意味し、「英国・インド式トイレ」、つまり洋式とインド式が合体したトイレということになる。
便座に座れば洋式として使え、便座を上にあげればインド式として使うことができるユニバーサルデザインだが、便座がないことのほうが多く、高さのあるインド式トイレと化している。
便座があったとしても、前に使った人が便座の上に誰かがしゃがみ込んでいる可能性も大いに考えられるので、便座からお尻を浮かせて中腰で対応するか、インド式ポーズで用を足すのが無難である。
アングロ・インディアン・トイレには「インド」が凝縮されている!?
しゃがみ込む方がいいならインド式を使えばいいのに、社会的地位を意識して洋式を使わなけれないけないという考え方の背景には、長い植民地支配の歴史や、格差社会、宗教など、インド特有の様々な事情がせめぎ合っている。
- 英国植民地時代に強調された格差社会に由来するステータスを強く意識する国民性
👉 一定以上のステータスなら洋式トイレを設置すべき - 民族混交を繰り返し、多種多様な宗教が共存していることから生まれる異文化へ対する寛容さ
👉 洋式トイレを使ってみようかな?
- ヒンドゥー教の教えから不浄なものへ強い抵抗
👉 洋式トイレは不浄だから使いたくない - 伝統を重んじ未知なるものや新しいものをなかなか受け入れられない保守的な一面
👉 しゃがみ込んで用を足したい
アングロ・インディアン・トイレにはこうしたインドならではの事情がギュ~~~っと凝縮されており、まるでインドそのものを表しているかのようだ(明らかなる過剰表現)。
しかし、見た目が不格好だからなのか(?)、全然メジャーではなく、年季の入ったローカル系商業施設や中流のご家庭でたま~に遭遇する程度で、ここ十年くらいに建てられた新しい建物で見かけたことは一度もない。
低価格帯の洋式トイレとそんなに変わらない価格帯で売られていることも、不人気の理由なのかもしれない。インド人は価格を気にする人が多いし、価格が同じならば「使いやすさ」「機能性」よりも「見た目」「ブランド」を重視する傾向(※)にあるので、洋式❝風❞のアングロ・インディアン・トイレではなく本物の洋式トイレが選ばれるのだろう。
※「ブランド」重視の例を挙げると、インドでは「iPhone」=富裕層というイメージがあり、iPhoneは庶民の憧れだ。そんなインドでは未だにiPhone7が新品で売られており、庶民の手が届く価格帯にまで値下がりしているので根強いニーズがある。3年以上前のiPhone7と最新の中国製高機能スマホの価格が同程度ゆえ、「iPhone」というブランドに惹かれてiPhone7を新品で購入する人も少なくない。
まとめ
インドという国は、複雑な国だと改めて感じる。そしてその複雑さが魅力でもある。
2023年10月追記:
最近家探しをしているのだが、時々アングロインディアントイレが備わっている家を仲介業者さんに紹介される…😂 私の予算だとこのタイプのトイレが紛れこんでくるのよね・・・
家さがし。ワイの予算でワイの部屋数とか立地の条件だと、こういうアングロインディアントイレを備えた古めの物件がちょいちょい混ざってくる。さすがに家でこのトイレは嫌だわ。力強く踏ん張るときにはよさそうだけど。 pic.twitter.com/1toDxduTtL
— 𝗖ʰᵃⁿ𝗞ᵒᵐᵉ (@chankomeppy) July 28, 2023
ジャグジーみたいな巨大バスタブが付いている家にも、なんとアングロインディアントイレが備わっていたのよ。ほんと分からないものだわ。非常に複雑な国だ。
頭おかしいサイズのバスタブとバスルーム、アングロインディアントイレが備わってるという謎すぎるスペックの家を紹介された😂😂😂 pic.twitter.com/VITKS4xYrt
— 𝗖ʰᵃⁿ𝗞ᵒᵐᵉ (@chankomeppy) October 13, 2023
▼私の家探しについての記事はこちら。あわせてど~ぞ! indoyuruyuru.com